研究概要

京都大学医学部附属病院の女性医師支援のための調査

本研究の原点は、研究代表者が平成20年度に京都大学グローバルCOEプログラム「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」と京都大学女性研究者支援センターが共同で公募していた「京都大学における男女共同参画に資する調査研究」に応募した「京都大学医学部附属病院の女性医師支援のための調査」です。この調査研究において女性医師支援策を先行して実施していた2施設(岡山大学病院、大阪厚生年金病院)を視察し、シンポジウム「女性医師が働き続けるために~大学病院の職場環境を考える~」を開催しました。また、京都大学医学部附属病院(以下京大病院)における女性医師がどのようにキャリアを継続し、家庭との両立をはかっているかを調査することを目的とした女性医師対象のアンケート調査を実施しました。

この結果、現在提案されている女性医師に対する復職支援や育児支援だけでは女性医師に対する支援として不十分であることが明らかになりました。「復職」という言葉は一度は離職することを前提としたものです。女性医師が妊娠・出産・育児というライフイベントを経てもなるべく第一線を離れずにすむような環境整備が重要であるという考察に至りました。また、女性医師支援イコール育児支援、という風潮は「育児は女性がするものである」という旧来の性別分業を前提としたものであり、男女共同参画の流れに逆行します。時間外労働制限・当直・オンコール免除などの「女性医師を対象とした」勤務時間短縮は確かに必要ではありますが、それだけでは「勤務を続ける」ことのみが目的となってしまい、対象となった女性医師が補助的な役割からなかなか抜け出せない可能性があります。

女性医師支援からすべての医師のワークライフバランスへ

そこで、平成21年度には視点を医師全体の勤務環境に移し、医師のワークライフバランスと男女共同参画を進めることを目的としてシンポジウム「女性医師支援からすべての医師のワークライフバランスへ」を開催しました。女性医師のみならず医師全体の勤務環境の改善と真の男女共同参画推進の必要性を確認しました。京大病院全医師を対象に、医師の現状と満足度・疲労の程度や医師にとってのインセンティブなどについてアンケート調査を実施しました。

女性医師のキャリア継続のために必要な医師の勤務体系の見直しと医学教育における新たなカリキュラムについての考察

平成22年度には「女性医師のキャリア継続のために必要な医師の勤務体系の見直しと医学教育における新たなカリキュラムについての考察」と題して医学教育を視野に入れ、女性医師や女子医学生に対するキャリアパス教育に関する検討・カリキュラム作成を研究対象に加えました。学生時代から戦略的にキャリアパスを練り、メンターからのアドバイスを貰えるように体制を整えて、卒後早い時期に(出来れば卒後10年までに)一定のスキルを身につける必要性があるのではないかと考えているからです。卒前から卒後に至る継続的かつ戦略的教育を提案していきたいと考えています。

また、前年度に実施した京大病院全医師の調査結果の解析を進め、様々なインプリケーションを得つつあります。

女性医師のキャリア継続に必要な医師の勤務環境とそれをとりまく 医療体制・医学教育・医療文化に関する研究

さらに、平成22年度厚生労働科学研究費補助金「地域医療基盤開発推進研究事業」に採択されました。女性医師自身の勤務そのものに加えてその周囲の環境(医療体制・文化・教育)などを含めて研究を深め、効果的な施策の提言につなげていきたいと考えています。